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浦和地方裁判所 昭和30年(行)7号 判決 1959年10月28日

原告 星野幾代 外一名

被告 埼玉県

主文

原告らの請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「一、建設大臣増田甲子七が昭和二六年三月三一日なした都市計画法第三条に基く浦和都市計画街路追加、変更並びに同事業及びその執行年度割に関する決定は、原告らと被告との間において、土地収用法第二〇条に基く事業認定として無効であることを確認する。二、埼玉県知事大沢雄一が昭和三〇年三月一八日別紙第一目録記載の物件(以下第一物件という)についてなした土地細目の公告は、原告らと被告との間において、無効であることを確認する。三、埼玉県知事大沢雄一が昭和三〇年九月一九日別紙第二目録記載の物件(以下第二物件という)についてなした使用貸借により権利細目の公告は、原告星野幾代と被告との間において、無効であることを確認する。四、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告訴訟代理人は、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。

原告訴訟代理人は、請求原因として次のとおり述べた。

(一)  原告星野幾代は第一物件の所有者であり、かつ、被告から第二物件を使用貸借により借り受けていたものである。また、原告鈴木千里は、原告星野幾代から昭和二八年六月ごろ浦和市仲町一丁目七一番地の宅地(第一物件の一部)上にある木造瓦ぶき二階建店舗一棟建坪一八坪二階一六坪五合を期限の定めのない使用貸借により借り受け使用していたもので、土地収用法第八条第三項の関係人にあたる。そして、被告は、浦和都市計画街路事業の起業者である。

(二)  建設大臣増田甲子七は、昭和二六年三月三一日付をもつて浦和都市計画街路追加、変更並びに同事業及びその執行年度制に関する決定をなし、昭和二六年六月七日建設省告示第五八一号でその告示をした。右決定は、都市計画法第三条により内閣の認可を受けなければならないが、都市計画法及同法施行令臨時特例第二条によつて右認可を受けることが不要となつている。したがつて、右決定は、都市計画法第一六条の規定による都市計画事業に必要な土地の収用については、同法第一九条により、土地収用法第二〇条の規定による建設大臣のなしたる事業の認定と看做される。そして浦和都市計画街路事業の起業者である被告は、第一物件につき右決定の告示があつた昭和二六年六月七日から三年以内に土地収用法第三一条の規定による土地細目の公告の申請をしなかつた。したがつて、右決定は、土地収用法第二九条により、その期間満了の日の翌日である昭和二九年六月七日から将来に向つて、その効力を失つた。

しかるに、被告は、右決定は未だ失効せざるものとして、埼玉県知事大沢雄一名義をもつて、昭和三〇年三月一八日第一物件につき土地細目の公告をなし、その旨原告星野幾代に通知し、また昭和三〇年九月一九日第二物件につき使用貸借による権利細目の公告をなし、その旨原告星野幾代に通知した。しかし、右各公告は、建設大臣増田甲子七の昭和二六年三月三一日付の前記決定の失効後になしたものであるから、無効である。

(三)  以上のとおり、建設大臣増田甲子七が昭和二六年三月三一日なした浦和都市計画街路追加、変更並びに同事業及びその執行年度割に関する決定、埼玉県知事大沢雄一が、昭和三〇年三月一八日第一物件につきなした土地細目の公告、および同知事が昭和三〇年九月一九日第二物件につきなした使用貸借による権利細目の公告は、いずれも無効であるのにかかわらず、浦和都市計画街路事業の起業者である被告が、これらを有効であるとして、じ後の土地収用手続を続行するので、原告らと被告との間において右行政処分の無効確認を求めるため、本訴請求に及んだものである。

被告訴訟代理人は、次のとお答えた。

(一)  被告が浦和都市計画街路事業の起業者であつたこと、原告星野幾代が第一物件の所有者であり、かつ、被告から第二物件を使用貸借により借り受けていたこと、原告鈴木千里が原告星野幾代から昭和二八年六月ごろ浦和市仲町一丁目一番地の宅地(第一物件の一部)上にある木造瓦ぶき二階建店舖一棟建坪一八坪二階一六坪五合を期限の定めのない使用貸借により借り受け使用していたこと、建設大臣増田甲子七が昭和二六年三月三一日付をもつて浦和都市計画街路追加、変更並びに同事業及びその執行年度割に関する決定をなし、昭和二六年六月七日建設省告示第五八一号でその告示をしたこと、被告が第一物件につき右決定の告示があつた昭和二六年六月七日から三年以内に土地細目の公告の申請をしなかつたこと、被告が埼玉県知事大沢雄一名義で昭和三〇年三月一八日第一物件につき土地細目の公告をなし、その旨原告星野幾代に通知したこと、被告が同知事名義で昭和三〇年九月一九日第二物件につき使用貸借による権利細目の公告をなし、その旨原告星野幾代に通知したことは、いずれもこれを認める。

(二)  右土地細目および権利細目の公告以後の経過は、次のとおりであつて浦和都市計画街路事業の起業者である被告は、権利者である原告らに対し、それぞれ補償金を支払い、原告らはこれを受取り、かつ第一、第二物件の引渡をなし、前記建物は現実に除去せられたものである。したがつて、第一、第二物件に対する土地収用手続は終了したものであつて、原告らの本訴請求は失当である。

(1)  起業者の土地細目の公告の申請 昭和三〇、三、一四

(2)  機関委任知事の土地細目の公告および通知 昭和三〇、三、一八

(3)  起業者の土地調書、物件調書作成 昭和三〇、六、一三

(4)  起業者と土地所有者原告星野幾代、関係人原告鈴木千里との間において前記調書に基き、土地収用法第四〇条の協議(不調) 昭和三〇、八、二九

(5)  起業者の権利細目の公告申請 昭和三〇、九、九

(6)  機関委任知事の権利細目の公告および通知 昭和三〇、九、一六

(7)  起業者の権利調書、物件調書作成 昭和三〇、九、二八

(8)  起業者と権利者との権利地に対する権利および物件につき土地収用法第四〇条の協議(不調) 昭和三〇、一〇、一一

(9)  (3)及び(7)の物件調書の若干の誤りを訂正するため、所有者原告星野幾代に立会通知 昭和三〇、一一、二九

(10)  右物件調書一部訂正作成 昭和三〇、一二、二

(11)  起業者と原告星野幾代、同鈴木千里との間において、土地収用法第四〇条の協議(不調) 昭和三〇、一二、二

(12)  起業者から建設大臣あて収用裁定申請 昭和三〇、一二、一四

(13)  建設大臣の収用裁定 昭和三〇、一二、二六

(14)  起業者から収用委員会あて裁定申請 昭和三〇、一二、二六

(15)  収用委員会裁決 昭和三一、三、九

(16)  起業者から補償金として原告星野幾代に金五、三五六、五九八円、原告鈴木千里に金七〇、〇〇〇円を支払う 昭和三一、三、一七

(17)  原告星野幾代が起業者に土地権利等を引き渡す旨の書類を提出 昭和三一、三、一七

(18)  原告星野幾代が前記建物を現実に除去し、起業者に土地権利等を現実に引渡す 昭和三一、四、六

なお、第一、第二物件が、現在建設大臣増田甲子七の昭和二六年三月三一日付の前記決定に定められた道路を構成する敷地となつている。

(三)  そうして、原告は、建設大臣増田甲子七の昭和二六年三月三一日付の前記決定が、行政処分であるから、右決定の無効確認を求めると主張する。そうすると、被告は当事者適格を有しない。したがつて、この点からするも、原告の本訴請求は失当である。

(四)  次に、建設大臣増田甲子七が昭和二六年三月三一日なした浦和都市計画街路追加、変更並びに同事業及びその執行年度割に関する決定は効力を失つていない。すなわち、都市計画事業の本質および手続と土地収用の本質および手続とを比較すると、土地収用法第二九条の規定が都市計画事業には適用せられないこと明らかである。そうでないとしても、都市計画事業の決定の内容中には、事業内容と執行年度割とを含んでいる。そして、右昭和二六年三月三一日付決定の執行年度割は、昭和二八年度を最終年度とするも、昭和二九年一〇月八日建設省告示第一四四〇号をもつて昭和二九年三月三一日に昭和二九年度を最終年度とする執行年度割に改められ、さらに、昭和三〇年七月一一日建設省告示第一〇五一号をもつて、昭和三〇年三月三一日昭和三〇年度を最終年度とする執行年度割に改められた。したがつて、土地収用法第二九条に定める三年の期間は、建設省告示第一〇五一号の告示があつた昭和三〇年七月一一日から起算すべきものである。

原告訴訟代理人は被告の主張に対し次のとおり述べた。

(一)  建設大臣増田甲子七が昭和二六年三月三一日なした浦和都市計画街路追加、変更並びに同事業及びその執行年度割に関する決定の執行年度割は、昭和二八年度を最終年度とすること、昭和二九年一〇月八日建設省告示第一四四〇号をもつて、昭和二九年三月三一日昭和二九年度を最終年度とする執行年度割に改められたこと、さらに、昭和三〇年七月一一日建設省告示第一〇五一号をもつて、昭和三〇年三月三一日に昭和三〇年度を最終年度とする執行年度割に改められたこと、土地細目および権利細目の公告以後の経過及び第一、第二物件の現状が、被告主張のとおりであることは、いずれもこれを認める。

(二)  被告は、都市計画事業の決定には事業内容と執行年度割とを含むと主張する。しかしながら、都市計画法第三条には、「都市計画、都市計画事業及毎年度執行スヘキ都市計画事業」と分類して記載してあるとおり、執行年度割と称するものは、「毎年度執行すべき都市計画事業」に当ることは明らかである。したがつて執行年度割の変更とは、要するに毎年度執行すべき都市計画事業の予定の変更を意味するにすぎない。都市計画法第一九条に規定する「第三条ノ規定ニ依ル都市計画事業ノ許可ヲ以テ」とあるは前記の「都市計画事業」を指すものであつて、「毎年度執行スヘキ都市計画事業」を指すものではない。ゆえに、執行年度制の変更があつたとしても、これをもつて、あらたに都市計画法第十九条に規定する「都市計画事業ノ許可」があつたものとするわけにはゆかないものである。

理由

原告星野幾代が、もと第一物件の所有者であり、かつ、被告から第二物件を使用貸借により借り受けていたこと、原告鈴木千里が昭和二八年六月ごろから第一物件の一部である浦和市仲町一丁目七一番地の宅地上にあつた木造瓦ぶき二階建店舖一棟建坪一八坪二階一六坪五合を原告星野幾代から期限の定めのない使用貸借により借り受けていたこと、被告が浦和都市計画街路事業の起業者であつたこと、建設大臣増田甲子七が昭和二六年三月三一日付をもつて浦和都市計画街路追加、変更並びに同事業及びその執行年度割に関する決定をなし、昭和二六年六月七日建設省告示第五八一号でその告示をなしたこと、被告が埼玉県知事大沢雄一名義で昭和三〇年三月一八日第一物件につき土地細目の公告をなし、その旨原告星野幾代に通知したこと、被告が同知事名義で昭和三〇年九月一九日第二物件につき使用貸借による権利細目の公告をなし、その旨原告星野幾代に通知したこと、第一、第二物件の収用については、昭和三〇年一二月二六日建設大臣の収用の裁定がありその損失の補償について、昭和三一年三月九日収用委員会の裁決があり、右裁決に基いて被告が昭和三一年三月一七日補償金として原告星野幾代に金五、三五六、五九八円を、原告鈴木千里に金七〇、〇〇〇円をそれぞれ払渡したこと、原告星野幾代が昭和三一年四月六日までに第一物件の一部の地上にあつた前記建物を限去し、第一、第二物件を被告に引き渡したことは、いずれも当事者間に争いがない。そして、また、建設大臣増田甲子七の昭和二六年三月三一日付の浦和都市計画街路追加、変更並びに同事業及びその執行年度割に関する決定に定められた二等大路第三類第五号線街路名称鯛ケ窪本太線、起点仲町一丁目、終点字寺前間旧仲仙道から県道浦和越谷線に通ずる道路の幅員一一メートルの道路が完成していることは、公知の事実であり、現在第一、第二物件が右道路を構成する敷地となつていることは、当事者間に争いがない。

しかるに、原告らは、現在第一、第二物件につき、所有権、またはその他の権利を有することの確認を求めるものでないことは明らかであり、単に請求の趣旨記載のとおりの土地収用の一連の手続の一部の無効確認を求めるものである。すると、たとえ土地収用手続が適法になされたかどうかが、現在の権利関係の存否に影響を来たすべき場合においても、それは単に前提問題としての意義を有するに止まり、現在の権利関係の存否につき確認の訴を認めるほか、かかる過去の法律関係の存否についてまで、確認の訴を認める必要はない。したがつて、原告らの本訴請求は、確認の利益がないから失当として棄却すべきものである。

のみならず、原告らは、「建設大臣増田甲子七の昭和二六年三月三一日付の浦和都市計画街路追加、変更並びに同事業及びその執行年度割に関する決定は、都市計画法第一六条、第一九条により土地収用法第二〇条の規定により建設大臣のなしたる事業の認定と看做される。そして、浦和都市計画街路事業の起業者である被告は、第一物件につき、右決定の告示があつた昭和二六年六月七日から三年以内に土地収用法第三一条の規定による土地細目の公告の申請をしなかつた。したがつて、右決定は土地収用法第二九条により、その期間満了の日の翌日である昭和二九年六月七日から将来に向つて、その効力を失つたものである。」と主張するが、

なるほど、前記建設大臣増田甲子七の昭和二六年三月三一日付の浦和都市計画街路事業に関すい決定は、都市計画法第三条、第一六条、第一九条、都市計画法及同法施行令臨時特例第二条により土地収用法〔昭和二六年法律第二一九号、昭和二六年一二月一日施行、以下新法という〕第二〇条〔明治三三年法律第二九号、土地収用法{以下旧法という}第一九条、土地収用法施行令{昭和二六年六月九日法律第二二〇号}第五条参照〕の事業の認定と看做される。また、土地収用法〔新法〕第二九条〔旧法第一八条〕には、起業者が事業の認定の告示があつた日から三年以内に土地細目の公告の申請をしないときは、事業の認定は、期間満了の日の翌日から将来に向つて、その効力を失う旨定められている。そして、浦和都市計画街路事業の起業者である被告が、第一物件につき、建設大臣増田甲子七の昭和二六年三月三一日付の前記決定の告示があつた昭和二六年六月七日から三年以内に土地収用法第三一条の規定による土地細目の公告の申請をしなかつたことは、当事者間に争いがない。そこで、土地収用法〔新法〕第二九条の規定が都市計画事業に適用があるかどうかについて考えてみる。

(1)  都市計画法には、都市計画事業の認可の告示については、なんらの規定もないこと。

(2)  都市計画法第三条には、「都市計画事業」と「毎年度執行スヘキ都市計画事業」〔同法第七条、第六条ノ二参照〕とを区別して記載しており、都市計画事業の執行が、各年度にわたつて、すなわち相当期間にわたつてなされるべきことを予定していること。

(3)  都市計画事業は、永久に都市公共の安寧を維持し、福利を増進するため、道路、広場、河川、港湾、公園、緑地その他の重要施設の計画を実現することを目的とする〔都市計画法第一条〕に反し、土地収用法〔新法〕第三条に定める事業は、特定の公益事業の成功を目的とするものである。したがつて、都市計画事業は、その規模において遠大であり、かつ、その執行には相当長期間を要する。ゆえに、都市計画事業の決定後、現実に土地の買収に着手するまでには、相当長年月を要する場合も少くなく、その場合に三年をかぎつて事業認可の効力を失わしめるのは、無用のことと考えられる。

(4)  都市計画事業は、一定の経費を支出して現実に事業を執行するものであるから、都市計画事業のためには財源を必要とする。都市計画法第六条は、都市計画事業の費用は、行政官庁がこれを行う場合には国の負担とし、公共団体を統轄する行政庁がこれを行う場合には、その公共団体の負担とする等定めている〔なお、同法第六条ノ二、第七条参照〕。国または公共団体の負担ということは、帰するところ、国民、または、その公共団体の住民の租税等によつて、まかなわれるということを意味する。したがつて、短年月に都市計画事業をなしとげるということは、財源の面で非常に困難がともなう。かかる財源の点をも考慮して、都市計画法第三条は、「都市計画事業」の決定と、「毎年度執行スヘキ都市計画事業」の決定とを区別して規定したものと思われる。

以上の点を綜合して考えると、土地収用法〔新法〕第二九条の規定は、都市計画事業には適用がないものと解する〔飯沼一省「都市計画」自治行政叢書一〇巻三一二頁、丹羽七郎「都市計画法」現代法学全集二七巻五一頁参照〕。したがつて、前記建設大臣増田甲子七の昭和二六年三月三一日付の浦和都市計画街路事業に関する決定は、その告示があつた昭和二六年六月七日から三年を経過するも、その効力を失うものではない。

そうすると、右決定が昭和二九年六月七日以降失効したことを前提とする原告らの本訴請求は、理由がない。

よつて、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 浅賀栄 川名秀雄 竹田国雄)

(別紙目録省略)

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